ちょぴん先生の数学部屋

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ヨビノリさんからの挑戦状 ~数学夏祭り 第3問~

ヨビノリさんの企画、「数学夏祭り」に参加しております。

本日9/2に出題された、第3問はこちら、

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見たところ、いわゆる「チェビシェフ多項式」を利用したcosの値の積を求める問題のようです。早速やっていきましょう。

(筆者の解答時間は1時間でした)

 

筆者の答案

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答案自体は、シンプルにまとまりましたが、初手でかなり試行錯誤しました。

実質的な答案は1枚目のみで、2枚目は答案に必要な定理の証明になります。

 

まず問題文に与えられているTn(x)は、「チェビシェフ多項式と呼ばれるもので、問題文の定義の通り、cosのn倍角の公式をつくる多項式になります。大学入試でも、割とよく出てくるテーマです。(余談ですが、Tはチェビシェフの頭文字です)

 

このチェビシェフ多項式Tn(x)は、以下の性質を持つことが知られています。

1. Tn(x)はn次多項式である。

2. 最高次係数は、2^(n-1)である。

上記は数学的帰納法で比較的簡単に導出できます(2枚目にこれらの証明を書いています)。今回の問題は、この知識を前提に解くことになります。

 

さて、ここからが本題です。

要求されているのは、cosの値の掛け算の計算です。

 

「たくさんの掛け算」を見たときに連想してほしいのは、「解と係数の関係」です。

cos (2k-1)π/79 たちを解に持つような方程式が作れないか? こう考えます。

 

もしそんな方程式f(x)=0があれば、f(x)は、0でない定数Aを使って

f(x)=A(x- cosπ/79)・・・(x- cos79π/79) と因数分解できるはずです。そしてx=0を代入すればお目当ての掛け算がゲットできることになります。

 

よって、そんなf(x)を作ろう!!という方針で解いてみることにします。そのときに大きく役立つのが、前述のTn(x)です。

 

さて、Tn(x)をどう生かそうか? x=cos (2k-1)π/79をどうにかして作りたい。。

 

ここでは、Tn(x) = -1という方程式を考えてみてはどうでしょうか?

 

これを満たすθを0≦θ<2πの範囲で探しに行くと, Tn(x)の定義式から

cosnθ = -1

⇔nθ = -π +2kπ (k=1,・・・,n)

θ = (2k-1)π/n

となって、欲しいものに大分近くなりますね。θの個数はn個あり、その1つ1つがxと対応しているので、結局

Tn(x) = -1 の解は、x=cos (2k-1)π/nのn個見つかったことになります。

 

ここで、Tn(x)はn次式で、n次方程式の解の個数は高々n個なのでした。よって、

x=cos (2k-1)π/n (k=1,・・・,n) が、Tn(x) = -1 の解のすべてとなります。

 

これを使えば、Tn(x) +1 = A(x- cosπ/n)・・・(x- cos(2n-1)π/n)

因数分解できることが分かります。n=79とすれば、Kに大分近づきますね!!

 

しかし、問題文をよく見てみると、kの範囲が1から40となっていて、上限があっていません。

 

このカラクリを解き明かしましょう。

 

x=cos (2k-1)π/79 (k=1,・・・,79) のkに実際の値を入れてみると、実は、

kが41以上の時は、kが39以下の時のもののどれかと同じ値になります。

具体的には、

cos (2*1-1)π/79 = cos (2*79-1)π/79

cos (2*2-1)π/79 = cos (2*78-1)π/79

・・・

cos (2*39-1)π/79 = cos (2*41-1)π/79

といった具合になります。

 

つまり、Tn(x) + 1=0の解は、実際にはk=40の時(x=-1)を除いて全て重解になっているわけです。

 

以上をまとめれば、

T79(x) +1 = A (x+1) *(x-cos (2*1-1)π/79)^2* (x-cos (2*2-1)π/79)^2*・・

・・・(x-cos (2*39-1)π/79)^2*

と欲しかった方程式が出来上がります!!ここに、x=0を代入してみると、

 

左辺については、θ=π/2を代入するのと同じなので、1になります。

右辺についてはA×K^2とできます。

なぜなら、k=40の時は、(0-cos (2*40-1)π/79)^2 = (-1)^2 =1となるからです。

Kについて解いてあげれば、

 

K= ±√Aとなります。

 

次に気になるのはKの符号ですね。これはKの定義に立ち返ると分かります。

cos (2k-1)π/79の正負をチェックすると、

・1≦k≦20の時はプラス (20個)

・21≦k≦40の時はマイナス (20個)

ですね。プラスのものを偶数個、マイナスのものを偶数個掛け算してKが出来上がっているので、Kはプラスだと分かります。

 

さらに、チェビシェフ多項式の最高次係数は2^(n-1)だったので、

Aの値が、A=2^(79-1) = 2^78 だと分かります。

 

ここまでくれば、Kが具体的に、

 

K= (1/2)^39 と求まります。

 

対数をとればそもそも整数なので、[ | log K| ] = 39 と求まります。これで終了です。

 

 

この問題は、大学入試で仮に出るとすれば間違いなく誘導の小問がつくはずです。一番の難所は、Tn(x) +1を因数分解する というアイデアを思いつくかどうかでした。

 

最初、素直にTn(x)=0を考えたのですが、こうしてしまうとθの分母が必ず2n、つまり偶数となってしまい、今回の問題とマッチせず頓挫しました。

 

かなり手ごたえのある難問でした。。。