ちょぴん先生の数学部屋

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0.99999・・・=1 ~小学校の算数で登場する極限のお話~

皆さん、こんにちは。

 

ついに2021年も今日で最後となりますね。

そんな年の瀬に、皆さんが小学校で出くわしただろうある話題について紹介したいと思います。

 

それがタイトルにもある、

「0.99999・・・・・=1」

という話です。

 

おそらく小学校の算数で分数、小数について習った際、こんな話をしてくれた先生がいたかもしれません。学習塾で話を聞いたことがある人もいるかもしれません。

 

「0.99999・・・・・=1」

 

一見すると違和感を感じる式ですよね。いくら小数点以下に9が無限に並んでいるとはいえ、0.0000000・・・・・1はズレてるんだから、1にはならないでしょ、って思う人が少なくないと思います。

 

しかし、この式は数学的には「正しい」式です。つまり、小数点以下に9が無限に並んだ小数と1は、ぴったり一致するのです。

 

このことを、いくつかの方法で証明してみましょう。

 

1. 「0.99999・・・=1」の証明

 

(1) 1/9を利用する方法(小学校算数範囲)

 

1/9を小数で表そうとすると、筆算を使うことで

 

1/9=0.1111111111111111111111・・・・・ ①

 

のように、小数点以下に1が無限に続く形になります。

 

さて、この①を両方9倍してあげます。

 

左側は、1/9×9 = 1 になります。

一方右側は、0.1111111111111111111111・・・・・×9 = 0.999999999999・・・・・

と小数点以下に9が無限に続く小数になります。

 

同じものを9倍したのだから、9倍した後も同じ数になっていないとおかしいですね。

なので、

「0.99999・・・・・=1」

が言えることになります。

 

(2)方程式を使う方法 (中学数学範囲)

 

x=0.99999999・・・・・とおきます。このとき、10倍してあげると

10x=9.9999999・・・・・・となり、小数部分はxと全く同じになります。

 

よって、

10x - x = 9

⇔9x = 9

⇔x=1

と解くことができます。 これによって、

「0.99999・・・・・=1」

が言えることになります。

 

(3) 極限を使う方法 (高校数学範囲)

 

小数点以下に9がn個並ぶ小数をSnとします。

 

このとき、Snは

Sn= 0.9999・・・9 = 0.9 + 0.09 + 0.009 +・・・+0.0000・・・009

の形になって、「初項0.9, 公比0.1の等比数列の和」になっていることが分かります。

 

等比数列の和の公式を使うと、

Sn = 0.9 × { 1 - (0.1)^n} / (1 - 0.1) = 1 - (0.1)^n

とSnがnの式で表現できました。

 

さて、今回知りたい「小数点以下に9が無限に並ぶ小数」は、n→∞の極限をとることで求まるので、(0.1)^n →0に注意すると、

Sn → 1

になります。

 

これで

「0.99999・・・・・=1」

が分かりました。

 

2. 何で違和感を持つのか?

 

上記、いくつかの証明方法を紹介しましたが、それでも何だかモヤモヤが残ってしまう人が多いのではないかと思います。

 

それは、この数式に「無限」という概念が入ってしまっているのが主因だと思います。

 

小数点以下にいくら9が「たくさん」並んでいたとしても、9の個数が数えられる限りは「無限ではない=有限」なのです。

 

通常、私たちが想像できるのは、「たくさん」と言えどもせいぜい1万個、1億個、1兆個、1京個、といった具合に「原理的には個数を数えられる」範囲の話です。

 

9の個数がそんな「有限」個である限りは、1と0.999・・・9は、ごくわずかではあるものの0.000・・・・1はズレているので、「0.999・・・9=1」にはなりません。

 

だから、私たちの直感と、数学的な「無限」が食い違うために、違和感を感じてしまうのだと思います。

 

以前紹介したバーゼル問題も、平方数の逆数を「無限に」足していく問題でしたが、その結果は円周率πを含んだ無理数になりました。

stchopin.hatenablog.com

 

有理数を有限個足す限りは、絶対に答えは有理数です。無限個足したことによって初めて無理数になるわけです。

 

こんな感じに、「無限」という操作には、直感に反するデリケートな部分が少なからずあるわけです。

 

高校数学で習う「極限」も「無限」という概念を取り扱う話題ですが、そこでも「収束する=『限りなく』特定の値に近づいていくこと」と、数学的にはかなり曖昧でぼかされた説明をされています。

 

こんなデリケートな「無限」という概念をもっと厳密に取り扱いたい、という意図で誕生したのが、大学数学で学ぶ「ε-δ論法」という定義の仕方です。

 

このε-δ論法については、後日記事を上げる予定です。

 

このような、「無限」「極限」を取り扱う数学の事を解析学と呼びます。

 

こんな風に考えると、小学校で登場する「0.99999・・・=1」は、高校大学と学んでいく「無限」という概念が最初※に登場する、深い解析学の世界の入り口なのかもしれません。

 

※最初というのは語弊があるかもしれませんね。実は小学校で習う「円の面積=半径×半径×円周率」という公式にも、「極限」の操作が背景にあります。

 

 

 

 

というわけで、2021年内の記事は本記事が最後になります。来年こそは明るい年になりますように。皆さま、よいお年を。