ちょぴん先生の数学部屋

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小学校の算数教育に物申したい!! ~なんでその掛け算の順番じゃないと×になるの?~

皆さん、こんにちは。

 

ネットでこんな画像が話題になっていました。

(出典:【画像】この問題の正解は? : 2chコピペ保存道場 (2chcopipe.com)

 

小学生の算数のテストの答案で、式の部分が×にされています。

 

私が小学生の頃(20年前)はそんな規則はなかったのですが、最近の小学校では「掛け算の順番を正しく書かないと×にされてしまう」ようなのです。

 

私は、小学校におけるこの掛け算の順番に関する教育に、断固として異議を唱えます。

今回の記事では、どうしてそう考えるのかをまとめていきたいと思います。

(※あくまで私一個人の感想に過ぎないので、これが絶対だ!と思う必要はありません。あしからず)

 

 

私が、小学校における掛け算の順番の教育を問題視している理由は、大きく以下の2つです。

1. 算数嫌いを増やしてしまうリスクがあるから

2. 小学校で習う順番が、今後の学習内容と矛盾するから

 

それぞれ説明していきましょう。

 

1. 算数嫌いを増やしてしまうリスクがある

 

問題を再掲すると、

f:id:stchopin:20211027141133p:plain

 

「長椅子が6つあります。1つの椅子に7人ずつ座るとみんなで何人座れますか?」

 

という問題です。

 

当ブログの読者は大人(少なくとも高校生以上)がほとんどでしょうから、答えは簡単に計算できますよね。

 

<答案A>

(椅子の数)×(椅子1個あたりに座れる人数)

=6個×7人/個

=42人

 

ですね。

 

もちろん、掛け算の順番をひっくり返しても同じ答えが求まります。

 

<答案B>

(椅子1個あたりに座れる人数)×(椅子の数)

=7人/個×6個

=42人

 

このどちらも、本来は途中式含めて正解となるはずの答案です。

 

ところが、小学校の指導要領では<答案A>はNGのようなのです。

 

掛け算の順番が違うだけなのに、片方は正解、もう一方は不正解扱いになってしまうのです。

 

どうやら、

 

「(1個あたりの人数)×(個数)」の順番で掛け算しなさい

 

と教えるのが、小学校の指導要領らしいのです。

 

皆さんどう思います?

 

出てくる答えは一緒なのに、掛け算の順番が違うだけでバツを付けられてしまう心境は?

 

子供と言うのは単純なもので、〇を貰ったり褒められたりすると自信がついてきてその教科が好きになっていくものです。仮にバツを食らっても、それが納得できる理由であれば、結果を受け入れ反省し次の成長に繋げられます。

 

しかし、指導要領に書かれている

「(1個あたりの人数)×(個数)」の順番で掛け算しなさい

 

というルールが、なぜそうなのかを小学校の先生方は子供たちに納得できる形で説明することができますか?

 

たぶんできないと思います。この後のセクションでも説明しますが、掛け算を

「(1個あたりの人数)×(個数)」の順番でやらなければならない合理的な理由は存在しないのです。実際、国によっても掛け算の順番のルールはてんでバラバラなようですし。

 

つまり、指導要領とは逆の順番で答案を書いた子供は、納得できる理由もないまま訳も分からずバツを付けられ、いたずらにショックを受け、算数を嫌いになってしまいかねないのです。

 

理系離れが社会問題として騒がれている昨今、こんな下らない理由で算数嫌いを増やしてしまうのは大きな社会損失になりはしないかと不安を覚えます。

 

小学校の段階では、とにかく『「1個あたりの人数」と「個数」を掛け算すれば全体の人数が求まる』という理屈を理解して、実際に計算ができるようになる、という目標が達成できれば十分であり、それに当たり「掛け算の順番」はさして本質的な話ではないのです。

 

計算を最後までやり切って正解するという達成感・成功体験を子供たちに味わってもらって「算数」を好きになってもらう

 

まずそれが大事なんだと私個人は強く思う次第です。

 

確かに、今後数学の学びが進んでいくと、「掛け算の順番によって答えが変わる」ケースが出てくるようになります。が、それを小学校の段階で教えたって混乱するだけです。厳密な理解は、必要になった時に勉強すればいいのですよ。

 

同じような局面が、高校生の数学でも登場します。

 

微分積分」を習う前段階で、「極限」という「限りなく近づけていく」概念を学びます。

数学的には「限りなく近づける」というのは曖昧な表現なので、大学に入った時に「ε-δ論法」という厳密な形の極限の定義を改めて勉強することになります。

 

しかしこのε-δ論法多くの理系大学生を挫折させるほど初学者には理解が困難な代物です。こんなものを、いきなり極限を初めて習う高校生に教えたらどうなるか・・・

 

殆どの高校生が極限の理解の時点で挫折し、その先にある微分積分の学習・応用までいかなくなってしまうでしょう。

 

それよりかは、多少厳密性には欠いていたとしても、直感的でもいいから極限の概念を理解させ、その先の微分積分の楽しさ・有用性を味わってもらう方が、ためになるでしょう。厳密な定義は後から必要になった時に改めて学習すればよろしい。

 

結局、何が言いたかったかと言うと、

 

厳密さを求めるばかり、本来算数・数学に存在している楽しさや有用性が伝わらなくなってしまうのは本末転倒だ

 

ということです。

 

 

というわけで、掛け算の順番に目くじらを立てることに代表される、本来楽しく有用なはずの算数の魅力が伝わりにくくする教育を小学校の段階ですべきではない、というのが1つ目の理由です。

 

 

2. 小学校で習う順番が、今後の学習内容と矛盾する

 

続いて、2つ目の理由の説明に移ります。

 

1つ目の理由の説明の中で、

 

「(1個あたりの人数)×(個数)」の順番でやらなければならない合理的な理由は存在しない

 

と言いました。ここを改めて掘り下げようと思います。

 

私の結論を先に言ってしまうと、

 

今後の数学の学習を考慮すれば、むしろ小学校の指導要領の

 

「(個数)×(1個当たりの人数)」の順番で掛け算する方が合理的である。

 

です。

 

それは何故か?まず小学生でもわかる簡単な例を挙げましょう。

 

<例1>

Q.3年は、何日の事ですか?(うるう年は考慮しない)

 

これを小学校式に計算すると、

(1年あたりの日数)×(年数)=365×3 = 1095日

となりますね。

 

そして、小学校式の逆の順番で計算すると、

(年数)×(1年あたりの日数)=3×365 = 1095日

となります。

 

当然答えは一緒になるのですが、どっちの方が自然に見えますか?後者ではないでしょうか?

「3年」という言葉があった時に、「年」の部分を単純に「365日」に置き換えて、その数字の順番のままに3×365と計算した方がスムーズなはずです。

 

おわかりですか?実は単位とセットになった数字は、それ自体が「(単位の個数)→(1単位当たりの個数)」の順番に書かれていることに。

 

「10kg」は1kgの重さの10倍を表す重さ、「6ダース」は1ダース(12個)の6個分を表す個数、「1km」は1mの長さの1k(=1000)倍を表す長さ、といった具合に。

 

これを考えるだけでも、「(単位の個数)→(1単位当たりの個数)」の順番に掛け算する方が合理的だ、と理解できるのではないでしょうか。

 

次は、文字式を習う中学生向けの例を挙げます。

 

<例2>

Q.  2yの3倍は何ですか?

 

これも小学生式に書くと、

2y×3 =6y

ですが、逆は

3×2y = 6y

となり、後者の方が数字を掛け算するだけだというのが見た目にも分かりやすくなっています。

 

yの係数6は、言い換えればyの個数です。この表記からして、個数が先行していることに気付くでしょう。

 

次は高校の物理・化学で学ぶ「気体方程式」を例として挙げてみます。

 

<例3>気体方程式

PV=nRT

 

大体どの教科書も文字はこの順番で書いてあります。Pは気体の圧力、Vは体積、nが粒子の個数、Rは気体定数(単なる数字と思って下さい)、Tは温度、です。

 

ここでも、右辺を見ると個数が先頭に来ています。RTはいわば「1粒子当たりの、圧力×体積」に相当する量になっているわけです。

 

こうしてみてみると、身の回りにあふれている単位や、中学以降に習う数式や公式は、ことごとく「(単位の個数)→(1単位当たりの個数)」の順番になっていることが良く分かると思います。その方が直感的で分かりやすいからです。

 

本当であれば、より本質的にどうして「(単位の個数)→(1単位当たりの個数)」が合理的な順番なのかを説明したいところなのですが、内容が難しくなりすぎるので今回は深入りしないことにします。

 

ここまで、先々を考慮すると小学校式の逆の順番の方が合理的だという説明をしてきましたが、そうなると、どうして小学校では合理的でない順番で教えるのか?ますます理解に苦しみますね。

 

小学校の段階では「(1単位当たりの個数)→(単位の個数)」の順番で計算せよと教え込まれるのに、先々に登場する公式や身の回りのデータは全部その逆の形ばかりが登場する。

 

余りに非合理で、子供たちに必要のない混乱・困惑を強いることにならないでしょうか?

 

これこそが、私が今の指導要領に反対する2つ目の理由となります。

 

 

以上2つの理由から、小学校において掛け算の順番に目くじらを立てる教育をすることに強く反対し、今すぐにでも取りやめるべきだと私は考えます。