ちょぴん先生の数学部屋

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平成の東大理系数学 -1995年-

このシリーズでは、平成の東大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。

東大の数学の問題は、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。

(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )

 

25回目の今回は、1995年の問題です。

第1問

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全ての正数x,yについて不等式が成立するkの条件を求める問題です。この問題は、市販の問題集でもよく取り上げられる良問です。

 

kという定数があるのでとりあえず定数分離しましょう。すると、左辺に来る

(√x+√y/√(2x+y)というxとyの関数より常にkが大きいので、この関数の最大値が分かればよいと分かります。この最大値の求め方が、この問題のポイントです。

 

まず、xとyが同時に動くと分かりにくいので、動かす文字を1つに絞りたいです。

 

もちろん、xを固定してからyを・・という予選決勝法でも解けるとは思いますが、この問題ではもっとうまい方法があります。

 

分子と分母に注目すると、定数項がなく、ルートの中身がxとyの1次式で揃っています。こうした式を「同次式」と言いますが、こんな時は、y/x =tと変換してみましょう。左辺の式がtだけの式になります。これで文字を1つにすることができました。

 

あとは、このtの式を微分して増減を調べれば最大値を調べることができます。

 

 

ただ、この問題は文系向けにも共通問題として出題されています。文系向けということは、分数関数やルートの微分を使わなくても解けるはずなんです。

 

ということで、別解その1として、微分を一切せずに最大値を調べる方法を紹介します。文系の人向けの解き方です。微分を禁止する縛りプレイをする関係上、若干発想が必要になります。

 

tの式、(1+√t)/√(t+2)は、ルートがばらけていて、このままでは増減が分かりそうにありません。ということで、変数変換でなんとか簡単な形にしたいです。

 

すぐに思いつくのはX=√(t+2)という変換の仕方ですが、これは、ルートの中にも外にもXが出てきてしまい、状況が好転しません。

 

ということは、分子を変数変換しようかと考えるわけです。つまり、u=1+√tと変換します。この問題の場合は、これでうまくいきます。

 

この変換をすると、1/√(uの式)の形になり、ルートの中身だけで増減を語れるようになるうえに、このルートの中身が、1/uの2次式になるので、平方完成で増減を知ることができるわけです。

 

微分禁止にすると、このu=1+√tという変換を思いつく必要があり、難易度が上がってしまうわけです。この例からも、多くの引き出しを持っていたほうが楽になることがお分かりいただけるかと。。文系の人も、ルートの微分や分数関数の微分の仕方を知っていて損はありません。

 

最後に、これまでとは全く別のアプローチで解く別解その2を紹介します。大分テクニカルです。それは、「コーシー・シュワルツの不等式」という不等式を利用する方法です。

 

コーシー・シュワルツの不等式は、(a^2+b^2)(c^2+d^2)>(ac+bd)^2という不等式で、様々な分野で登場する不等式です。証明は容易で、図形的には、

「ベクトルaの長さとベクトルbの長さの積 > aとbの内積」で理解されます。

 

さて、この不等式において、a=1/2, b=1, c=√(2x), d=√y と選んであげると、

うまいこと、√x+√y < (√6/2)√(2x+y)を証明することができます。

 

よって、kが√6/2以上になることが分かり、y=4xとすれば等号が成立するので、kは√6/2にもなりえることが分かるので、kの最小値は√6/2だと分かるわけです。

 

他にも様々な別解がありそうなので、思いついたら追記します。

 

<筆者の解答>

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第2問

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積分で書かれた関数の不等式を証明する問題です。

g(x)の積分の形は、フーリエ変換ラプラス変換といった工学上重要な手法で頻出するもので「畳み込み積分」と呼ばれるものです。g(x)は関数y=xとy=f(x)の畳み込み積分です。

 

さて、そんな余談は置いておいて、問題の方に行きましょう。

 

まずは、g(x)の増減を計算しないことには話が進まないので、xで微分しましょう。

xで微分するときは、積分の中にあるxを外に追い出してから実行しましょう。

 

g(x)を2回微分すると、g''(x) =f(x)= 1-sinxと簡単な形になり、特にg''(x) > 0が分かります。言い換えれば、g(x)は常に下に凸な曲線になることが分かります。

 

実は、この問題、g(x)の具体的な形が分からなくても、g(x)が下に凸だと分かるだけで解けてしまいます。このことは、図を描くと分かります。

 

下に凸なグラフを描き、そのグラフ上の点をA(a, g(a) ), B(b, g(b) )とすると、AとBを結んだ線分は、つねにg(x)のグラフより上側にあります。これは、特にAとBの中点

M( (a+b)/2, (g(a)+g(b) ) /2)においても例外ではありません。Mは、

C( (a+b)/2, g( (a+b)/2) )より常に上にあるわけです。これで証明完了です。

 

もちろん、下凸性のこうした性質を知らなくても、g(x)の具体的な形を積分によって計算することで解くこともできます(別解にて紹介)が、最後の評価が少し難しいです。

 

不等式評価で、こうした凸性の利用は頻繁に使えるので、頭の片隅に置いておくと役立つかもしれません。

 

<筆者の解答>

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第3問

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タイルの敷き詰めを題材にした場合の数の問題です。非常に易しい問題です。

 

(1)は、それ自体が大ヒントになっていて、n-2とn-1のケースからnのケースを作れ!と言っているわけです。ということで、長さn-2になった状態から長さnにする敷き詰め方と、長さn-1になった状態から長さnにする敷き詰め方を、重複がないように数えましょう。

 

(2)は、(1)の漸化式を解くだけです。ご丁寧にA1とA2の値まで問題文に書いてあります。東大さん、出血大サービスしすぎです笑。

 

<筆者の解答>

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第4問

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自然数を変数にした関数の最小値を考える問題です。

 

いきなり整数で考え出すと難しいので、まずは正の実数xでf(x)=x+N/xを考えてみましょう。このf(x)は、相加相乗平均を使うと、x=√Nのときに最小値となる下凸のグラフになることが分かります(微分を使ってももちろん分かります)。

 

√Nが整数であればいいのですが、残念ながら多くの場合で√Nは整数になりません。

この場合は、√Nの近くにあるNの約数nについて、f(n)が最小値の候補になるわけです。

 

よって、√Nの近くにあるNの約数を調べることが、この問題のメインの作業になります。

 

(1)N=2^kの時は、kの偶奇で話が変わってきます。

kが偶数の時は、√N自体が整数(しかもNの約数)になるのでf(√N)がそのものずばり最小値になりますが、kが奇数の時は√Nが整数になりません。k=2m+1のとき、

2^m<√N<2^(m+1)となるので、f(2^m)とf(2^(m+1) )が最小値の候補になります。

 

(2)N=7!のときは、√N=12√35となるので、70<√N<72が言えます。あとは同じ議論ですね。

 

<筆者の解答>

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第5問

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回が進むごとに進む距離が半分になっていく、牛歩な点の座標について考察する確率の問題です。

 

(1)が、この問題の核心部分の理解になります。進む距離が次々と半分になるので、一度軸の外に飛び出してしまうと、どんなに戻ろうとしても軸に二度と戻れません。このことを説明しましょう。

 

(2)は、(1)での考察から、Pは一度第1象限に飛びだすとずっと第1象限に留まります。

よって、「Pnが第1象限にいる確率」=Σ「Pがk回目で初めて第1象限に飛びだす確率」となるので、後者を考察すれば十分です。

 

第1象限に飛びだすためには、(1)より、xマイナスに動くよりも先にxプラスに動き、かつyマイナスに動くよりも先にyプラスに動けばよいことが分かります。このような場合の数を調べ上げることで確率を計算できます。

 

最終的に求める確率は、1/4*(1-2(2/3)^n+(1/3)^n)となりますが、妥当性の確認もちゃんとできます。

 

対称性から、Pが第2象限、第3象限、第4象限にいる確率も全く同じなので、この確率を4倍したものは、「Pが座標軸にいない確率」になります。

 

ここで、(2/3)^nはx軸に留まり続ける確率であり、y軸に留まり続ける確率でもあります・また、(1/3)^nはPが原点に留まり続ける確率となるので、「Pが座標軸にいる確率」は、2(2/3)^n-(1/3)^n となります。

 

これにより、求まった答えが妥当なことが分かります。

 

<筆者の解答>

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第6問

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双曲線の接線と2つの漸近線の交点が作る3角形の面積を考える問題です。

 

双曲線の接線の式は、接点をP(x0, y0)としたとき、(x0/a^2)x - (y0/b^2)y = 1となり、

漸近線はy=±(b/a)x と書けます。

 

(1)はこれらを使ってQとRの座標を求めればよいです。

 

(2)は、(1)のSの式に与えられたaとbの関係式を代入し、微分して増減を調べるだけです。

 

<筆者の解答>

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