ちょぴん先生の数学部屋

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平成の東大理系数学 -1994年-

このシリーズでは、平成の東大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。

東大の数学の問題は、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。

(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )

 

26回目の今回は、1994年の問題です。

第1問

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4次関数と5次関数の性質を調べる問題です。

 

(1)は、x>0のときはf(x)>0は当たり前なので、x<0について考えます。

この式のまま強行突破してもイケるとは思いますが、そうすると微分したときに係数がスッキリしないので難しくなります。なので、ここで一工夫したいです。

 

f(x)の係数に注目すると、それぞれ0!, 1!, 2!, 3!, 4!, 5!の逆数になっていることに気づきます。一方、多項式微分し続けると、4,3,2,1と階乗に近い係数が吐き出されます。

 

そこで、f(x)をx^4で割って1/x=-t (t>0)と置きなおしてみると、微分したときに係数がスッキリするtの4次関数F(t)になります。このF(t)がt>0で正なことが言えれば、この(1)は証明できたことになります。

 

F(t)を2回微分するとこれが正になるので、F'(t)は単調増加です。残念ながらF'(0) <0となるので、F(t)は単調増加ではないので、増減を調べる必要があります。

 

ここで、F'(β)=0となるとすると、F(t)の最小値はF(β)となるので、これが正であることが言えればいいのですが、F(β)をどう求めるか?

 

ここでよく使うテクニックですが、F(t)をF'(t)で割り算したときの商をp(t), q(t)とすると、tにβを代入すると、F(β) = p(β)*F'(β) + q(β) = q(β)となります。qは2次式なので、平方完成により、q(β)が正になることが言えます。

 

これで証明完了ですね。

 

(2)も、x>0ではg(x)>0となって解がないことは明らかなのでx<0で考えます。

 

(1)と同じように、g(x)を-x^5で割り算して1/x=-tと置きなおしてあげるとtの5次関数G(t)ができます。G(t)を微分すると、なんと(1)のF(t)になるので、G(t)が単調増加になることが即座に分かります。これで実数解が1つしかないことが示せました。

 

次に解の位置ですが、G(1)<0なので、G(t)=0の解γは1より大きくないといけません。

よって、α=-1/γなので、-1<α<0となります。

 

この問題は、指数関数e^xの「テイラー展開」を背景としています。

 

テイラー展開とは、関数h(x)を、多項式を無限に足した形に表す方法で、n次の係数は、「h(x)をn回微分してx=0を代入した値÷n!」 となります。e^xの場合は、何回微分しても形が変わらないので、

e^x=Σ{1/n!}x^n となります。

f(x), g(x)は、このe^xのテイラー展開の親戚であり、F(t),G(t)が、e^(-t)のテイラー展開をそれぞれ4次で打ち切ったもの、5次で打ち切ったものになり、要はe^(-t)を4次式、5次式で近似していたというわけです。

 

<筆者の解答>

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第2問

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36°にまつわる三角比の和、積の性質を調べる問題です。

 

(1)は、まず2乗がイヤなので、2倍角の公式を使って2乗を解消しましょう。すると、cos36°=-cos144°、cos72°の種類の値の計算が要求されます。

 

解き方としては、cos36°、cos72°の値をそれぞれ直接計算する方法と、直接計算せずに進める方法の2通りがあります。

 

まず、前者の説明をしたいと思います。

36°の三角比の計算をする方法は、ある程度方法が決まっていて、θ=36°とわざと文字で置いてあげたときに、cos72°=-cos108° すなわちcos2θ=-cos3θが成り立つことを利用し、cosθの3次方程式を解く、というものです。

これを解けば、cos36°=(√5+1)/4, cos72°=(√5-1)/4 が求まるので、aとbの値を直接計算することができます。

 

次に、後者の説明をします(別解)。

あえてcosが入ったままの状態でa+b, abの式を計算していくと、いずれにも、

cos72°+cos144°の形が登場します。各々を直接計算して足し算するのではなく、いきなりcos72°+cos144°の値を出してみましょう。

72°で思い出すべきなのは、正5角形ですね。ここで、4つの複素数

α=cos72°+isin72°、β=cos144°+isin144°、γ=cos144°-isin144°、δ=cos72°-isin72°を考えてみると、これはz=1も加えれば、複素平面上で正五角形を作り、全てz^5=1の解になっています。α~δはいずれも1ではないので、z^4+z^3+z^2+z^1+1 = 0の4つの解になっています。

ということで、3次の係数に注目して解と係数の関係を使えばα+β+γ+δ = -1が言えますので、これを計算すると、cos72°+cos144° = -1/2 が求まります。

 

これで、aとbを直接求めることなく、a+b, abを計算することができるわけです。

今回はたまたま36°という直接cosを計算できる角度だったのでどっちでも行けたわけですが、角度がπ/7みたいな角度だと、直接cosを計算することが厳しくなるので、別解のような解き方が有効になってきます。

 

ここまでが(1)です。

 

(2)は、与えられた一般項を(1)の結果を使って簡単にすると、(4a)^n+(4b)^nとなります。この形を見れば、3項間漸化式を作るのはテンプレでしょう。これができれば帰納法で証明できます。

 

<筆者の解答>

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第3問

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お馴染み体積の問題です。誘導に従って計算するだけの問題です。

 

(1)は、もはや説明不要ですね。断面を描いて面積を計算するだけです。θがどの角度を指すかだけ注意です。

 

(2)はS(k)をkで積分するだけですが、三角関数の入り混じった複雑な積分を計算する必要があります。細かく分解して一つ一つ着実に計算を進めましょう。積分計算の、いい練習問題になると思います。

 

<筆者の解答>

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第4問

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積分を使った漸化式、および微分方程式の問題です。

 

まず、漸化式はfとgが入り混じっていて分かりにくいので、どちらかに統一したいですね。

fとgは微分積分の関係で結びついていますが、xで微分したところでgの要素が消えてしまうので、うま味がありません。ということで、漸化式の両辺を、0からcまでxで積分してあげましょう。gだけの漸化式に持っていけます。

 

漸化式を解けば、gn(x)をg(x)を使った一般項の形で求めることができます。今回は0<x<1なので、n→∞できちんと収束してくれます。

 

次に、gを微分したものがfになるので、与えられた恒等式をxで微分すればfのみが登場した微分方程式が出来上がります。この微分方程式は「変数分離系」という最も基本的な形をしているので、容易に解くことができます。

 

f(0)=1を使って積分定数を確定させれば、お終いです。

 

<筆者の解答>

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第5問

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カードの出方に偏りのある確率の問題です。この問題のメインパートは(2)です。

 

(1)は、AとBそれぞれのカードの出方を列挙して確率を足し上げればOKです。P(B)は、全体からa=bになる確率を引いて2で割る、という方法でも求められます。

ここで、4を引く確率rがr=1-p-4qと書けることに注意です。

 

(2)は、(1)のEが、pとqの2次式で書けているのでまずは平方完成です。ここで、p=1/2, q=1とできれば楽なのですが、そうは問屋が卸しません。なぜダメか?

4を引く確率がr=1-1/2-4でマイナスになってしまうからです。4のカードは確実に入っているので、rは0より大きく1未満でないといけないのです。この条件によって、pとqの取りうる値に制限がつくことになります。

p=1/m、q=1/nとおいてrの条件を処理すると、(m-1)(n-4)が5以上でないといけないことが分かります。mの値によって、nのとれる最小値が変わってくるので、mの値によって、Eの最大値候補を個別に計算して、大小比較をするしかないです。

このチマチマ計算が面倒くさい問題です。。。

 

<筆者の解答>

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第6問

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折れ線の長さに関するPの存在条件を求める問題です。

発想として難しいところはあまりないですが、場合分けの多さ、やるべき処理の多さが半端ない、とんでもない問題です。しかも、(1)が(2)の誘導になっているわけでもないので、その分分量が増えている有様です。本番では、即座に捨てるべき問題です。

 

まず, d(P,Q)についてですが、これはPとQの、x座標の差の絶対値+y座標の差の絶対値で表現できます。この時点で嫌な予感がしますが、それが的中してしまいます。。。

 

ということで、本問の難問たらしめているポイントは、

1. 絶対値外しの場合分けが9通りも必要になる

2. (2)ではさらに文字aが登場し、その後各部分について通過領域を出さないといけない

 

という2点に尽きます。

 

(1)は、前述のとおり、絶対値を外すのに9通り(xについて3通り、yについて3通り)の場合分けが必要です。愚直にやるしかないです。

 

(2)は、まずaを固定して(1)と同じことをやりましょう。すると、ジョグルのついた折れ線のような線が得られます。これが済んだら、折れ線の各箇所(3エリア)でaを動かして通過領域をそれぞれ求め、最後にガッチャンコです。通過領域を出すうえでは、真ん中の斜め線の処理が難しいです。

 

やること自体は単純でもとにかく息の長い問題で、2011年の第6問以来、答案が3枚になる羽目になりました。。。

 

<筆者の解答>

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