このシリーズでは、平成の東大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。
東大の数学の問題は、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。
(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )
29回目の今回は、1991年の問題です。
第1問
正四面体を転がしたときの底面について考察する確率の問題です。非常に易しい問題です。
最初に底面になっていた面をAとしたときに、n回後の底面がAになる確率をanとして漸化式を立てて解くだけです。
<筆者の解答>
第2問
楕円軌道を描く光源からの光による、長方形の影を求める問題です。
いきなり楕円で考えると難しいので、楕円上にPを固定したときの影を考えてみましょう。x断面とy断面の2つを考えることによりそれが長方形になることが分かります。
その長方形の中心が楕円を描くので、求める影は長方形の通過領域です。
<筆者の解答>
第3問
3次関数の実数解の最大値と最小値の積を考察する問題です。
(1)まず、3次関数x^3-3xの形状を描いてみると、pの値によって解の個数に違いが生じます。まずは、解の個数によって場合分けです。
・解の個数が1個 →解の絶対値が2より大きいのでf(p)は4より大きい。
・解の個数が2個 →f(p)=-2で一定
・解の個数が3個 →解と係数の関係を使うと、f(p)とpの関係式が求まる。
解の個数が3個の場合、f(p)が直接きれいにpの式で書き下せないので、この関係式のままpで微分することを考えます。pが最小になる時f'(p)=0となりますので、そこから、pの値、そのときのf(p)の値が分かります。
あとは、3つの最小値候補を比べればよいです。
(2)も引き続き、解の個数による場合分けが有効です。それぞれ、f(p)=ではうまく描けませんので、むしろp=の形で考え、pをfで微分するという逆転の発想が必要になります。
解の個数が3個の場合、pとf(p)が1対1対応になっている点に注意して、採用されるべきグラフの部分を確定させましょう。
<筆者の解答>
第4問
大学では、こうした類の特殊な性質をもつ多項式の集まりをいくつか勉強することになります。(例としては、「チェビシェフ多項式」「エルミート多項式」「ラゲール多項式」などです。量子力学などで登場します。)
こうした多項式の性質を調べるのに、漸化式と微分方程式を立てることが多いのですが、本問では、(1)では漸化式、(2)では微分方程式を取り扱っています。
(1)は、数学的帰納法で良いでしょう。
(2)は、(1)で作った漸化式をxで微分しても、係数のnが出てこないのでうまくいきません。そこで、与えられたcosnθ, sinnθの式を「xで」微分することを考えます。
x=tanθと置換してから微分したいですが、cosnθ, sinnθ, conθのn乗をxできれいに書けないので、「θで微分した後、θをxで微分したものを掛け算する」という合成関数の微分の知識が必要になります。
(1)で証明した漸化式も使ってあげると、(2)の証明ができます。
(2)の式を使うと、p''n(x) = -n(n-1)*pn-2(x), q''n(x) = -n(n-1)*qn-2(x) とpだけの式、qだけの式にまとまります。
<筆者の解答>
第5問
直線と無数の円の交わりを考える、この年の問題の最難問です。
この問題の難問たる所以は、ずばり「解釈の難しさ」です。
「任意の傾き2/5の直線が、格子点中心半径rの円のどれかと交わる」という問題文の表記だと、数学的な処理が難しいので、何とか処理のできる形に言い換えてあげたいです。
特に難しいのは「どれかと交わる」なので、ここはジョースター卿の教えに従い、「逆に考えるんだ!」です。
つまり、「格子点中心半径rの円のどれとも交わらない、傾き2/5の直線が存在する」rの条件を出して、最後にそれを逆にしてあげればいいんです。こちらのほうが処理が簡単になります。
よって、「y=2x/5+α/5が、どの格子点との距離もrより大きくなる」ようなαが存在しうるrの条件を求めることになります。
この条件を言い換えると、整数m,nに対して、|2m-5n+α|の最小値が√29 *rより大きいと言い換えることができ、さらに、α/5は周期性から0<α/5<1に絞って考えても無問題ですので、|2m-5n+α|の最小値は、αの整数部分をMとすると、|α-M|か|α-M-1|になります。
(※2m-5nは、2と5が互いに素なので、あらゆる整数値をとることができます。)
ここで、|α-M-1|が候補に入る理由ですが、例えばα-M=0.7だとすると、α-M-1=-0.3となって、|α-M-1|の方が小さいからです。一方、α-M=0.1であれば、α-M-1=-0.9となって|α-M|の方が小さくなります。よって、2つ両方が候補になるわけです。言い忘れましたが、0<α-M<1ですよ。
どちらのケースもカバーしたいので、|α-M|>√29 *rかつ、|α-M-1|>√29 *rであればよいです。これをαについて解くと、√29 *r<α<1- √29 *rとなり、こんなαが存在するには、右辺が左辺より大きければよいです。
これによって、「格子点中心半径rの円のどれとも交わらない、傾き2/5の直線が存在する」rの条件が、r<1/(2√29) と求まったので、その否定、
「任意の傾き2/5の直線が、格子点中心半径rの円のどれかと交わる」rの条件は、r>1/(2√29) となり、求めるべき最小値が1/(2√29) だと分かります。
<筆者の解答>
第6問
微分方程式の問題です。誘導に従って解いていきます。
(1)は、まず面積の情報からS(x)をf(x)で表現できます。次にS(x)の定義式を微分すると、S'(x)をf(x)で表現できます。この2本を使うと、うまいことS(x)だけの微分方程式になるので、解くことができます。f(x)-2f(2x)は、上記を解く過程で登場します。
(2)は、an(x)=2^n*f(2^n*x)とおいて、この関数の一般項を出します。この形は、(1)で求めたf(x)-2f(2x)を使うことで、an+1(x) - an(x)がnの式で書けるので、階差数列になります。
これによりa(x)がf(x)の式で表現できるので、要求されている積分を(1)の結果も使って実行しましょう。ここで、答えが0になることが、決定的に重要です。
(3)は、an(x)=2^n*f(2^n*x)と置いていたので、an(x)はx>0で常にプラスであり、(2)での考察から、an(x)は常にnについて減少します。よって、an(x)の極限a(x)は少なくとも0以上です
0以上の関数a(x)を積分したとき、もしa(x)が正になる場面があれば、積分すると必ずプラスになります。ところが、(2)の結果から、積分の値は0でした。
よって、a(x)はxによらずずっと0でないと矛盾してしまいます。これによって、f(x)が求まるわけです。
ここで、an(x)はずっとプラスなのに、n→∞をしたa(x)が0になることはおかしいんじゃないかと疑問が出る人もいるかと思いますが、極限とはそういうものです。
たとえばy=1/xはx→∞で0に収束しますが、これは0に「限りなく近づく」という意味なのであって、厳密に「値が0」になるわけではないのです。無限を取り扱うのは、こんな具合に結構繊細なのです。こうした「限りなく近づく」という概念を厳密に定義する方法が、大学数学の最初の関門、「ε-δ論法」というわけです。
(「ε-δ論法」は、当初はあまりの意味不明さに挫折し、筆者に純粋数学の学習を諦めさせる最大の要因となりました。。。今では意味するところをおよそ理解できるようにはなりましたが。。。)
<筆者の解答>