このシリーズでは、東大に引き続き、平成の京大理系数学の問題を1年ずつ遡って解いていきます。
京大の数学の問題も、難易度は高いですが良問の宝庫であり、演習価値が非常に高いです。
(時々、どうしようもなく難易度が高く、筆者の力量でも解けない問題が出てくることがありますが、どうかご容赦くださいm(_ _)m )
11回目の今回は、2009年の問題です。
2007~2010年の問題は、甲セットと乙セットの2種類がありますが、より難易度が高く受験者人口が大半を占めていた乙セットを解きます。
第1問
直方体を題材にした、平面の垂線と線分との交点の有無を調べる問題です。
まず、O, P, Qを通る平面αの式をs,tを使って求めます。ここで、平面の式がax+by+cz=dと書けるとき、その平面の法線ベクトルは、(a,b,c)と書くことができるので、これを使うと、Dを通るαに垂直な直線を表現できます。
この直線とxy平面との交点が、線分AC上に存在する条件を求めればよいです。
<筆者の解答>
第2問
本格的な初等幾何の証明問題で、難問です。
必要十分条件と訊かれているので、「Pが△ABCの内心⇒A,B,C,A',B',C'が同一円周上にある」と、「A,B,C,A',B',C'が同一円周上にある⇒Pが△ABCの内心」を両方証明する必要があります。
まず、前者の「Pが△ABCの内心⇒A,B,C,A',B',C'が同一円周上にある」について。
Pが内心ということは、直線AP, BP, CPはそれぞれ∠A, B, Cを2等分します。これを利用して、四角形ABA'Cが円に内接することを証明します。向かい合う角度の和が180°になればよいのでした。B', C'についても同じロジックです。
次に、後者の「A,B,C,A',B',C'が同一円周上にある⇒Pが△ABCの内心」については、円周角の定理などを利用して、「直線AP, BP, CPは、実はそれぞれ∠A, B, Cの2等分線になっている」ことを示します。そのために、各部の角度をちょこまか文字で置いています。
大学入試で、三角比も座標もベクトルも使わない、このような純粋な初等幾何の問題が出されるのは、非常に珍しいですね。
<筆者の解答>
第3問
山札からカードを引いて山札に戻す操作を繰り返して、一番底にあったカードが一番上にくる確率を計算する問題です。
n番目のカードがn回の操作で一番上に来るためには、n番目のカードの「高さ」がn-1枚分かさ上げされないといけません。言い換えれば、カードをn-1枚分、番号nのカードの下に差し込む必要があります。
n回の操作をするので、n回中n-1回は番号nのカードの下に差し込み、残り1回分は、番号nのカードの高さを変えない操作をすればいい、すなわち、番号nより下にカードを差し込まない操作を行えばよいです。
ということで、k回目に番号nより上にカードを差し込む動作をしして、残りはすべて番号nより下にカードを差し込む確率を計算し、和をとればよいでしょう。
ただし、その際は、k=nの時だけ例外扱いになることに注意です。
<筆者の解答>
第4問
行列Aが行列式1の行列であれば、最初の2回の長さが1だったら、Aを何回かけても長さが変わらないことを証明する問題です。
まずOP1 = 1となることから、a^2 + c^2 =1となることが分かりますので、a=cosθ、c=sinθ とすれば、一文字減らすことができます。
次にOP2 = 1となる条件と、ad-bc=1になる条件から、d = ±cosθが求まります。
dが2通り求まったので、それぞれについて場合分けして調査しましょう。
d=cosθとき、θ=0,πの例外を除けばAはθ回転を表す回転行列になりますので、Aをかけても長さは変わりません。
θ=0,πという例外に関しては、個別にA^nを計算して証明します。
d=-cosθのときは、bの式が若干汚くはなりますが、a+d=0, ad-bc=1なので、ケーリーハミルトンの定理が使いやすい形になっています。これによりA^nが求まります。
<筆者の解答>
第5問
極座標で書かれた曲線とx軸の囲む領域の回転体の体積を計算する問題です。
極座標のままだと体積計算で扱い辛いので、x=rcosθ、y=rsinθの変換式を使って、使い慣れたデカルト座標に直してしまいましょう。
あとは、お馴染みの置換積分を用いた体積計算です。今回の場合は、t=cosθと変換し、偶関数・奇関数の性質などをつかってあげると、計算の見通しが良いでしょう。
<筆者の解答>
第6問
a+b√2のn乗を題材にした整数問題です。(1)は難しくないですが、(2)が難問です。
(1)は、素直に(a+b√2)^2を計算してあげましょう。a2が奇数になることはすぐに分かり、ユークリッドの互除法を少し工夫して適用してあげれば、互いに素なことも証明できます。
(2)は、テンプレの帰納法だけではうまくいかない難問です。
anが奇数になることは、普通の帰納法で簡単に証明できますが、anとbnが互いに素なことをうまく証明できないのです。
ここで、一つの作戦として、「もしan, bnが最大公約数dを持つならば、それ以前のak, bkも公約数dをもつ。これを繰り返せばa,bも公約数dを持つことになるが、aとbが互いに素なことに矛盾する。故に背理法でan, bnは互いに素」という方針が浮かぶかもしれません。実際、筆者も最初はそれを試しました。
しかし、anとbnを、an+1とbn+1の式で表現しようとすると、どうしてもa^2 -2b^2が分数として残ってしまうので、うまくいきませんでした。
なので、ここは少し変則的に、「akとbkは互いに素だと仮定する。この時にak+1とbk+1が最大公約数dを持つとしたら・・・」を考えることにします。
akとbkの漸化式を使ってあげると、a^2 -2b^2がdの倍数、つまりdがa^2 -2b^2の約数であることが分かります。
一方で、2つの漸化式を使って、akだけの漸化式、bkだけの漸化式に変換してあげると、dは2aの約数でもあることが分かります。
ということで、dは、2aとa^2 -2b^2の公約数となります。
2aとa^2 -2b^2は互いに素なことが分かりますので、dは1しかありえないことが分かりました。
dはak+1とbk+1の最大公約数だったのですから、これが1ということはつまり、ak+1とbk+1が互いに素だという意味になります。
これによって、帰納法がうまく成立しました。
このak+1とbk+1が互いに素であることを示すアイデアを思いつくは、試験場では不可能だと思いますので、この(2)は、本番で解ける必要はありませんね。
<筆者の解答>