ちょぴん先生の数学部屋

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21世紀の奈良県立医大前期数学 -2006年-

このシリーズでは、奈良県立医科大学の前期の数学の問題を解いていきます。

 

17回目の今回は2006年です。

第1問

行列を用いた、ベクトル列に関する問題です。

 

(1)いわゆる「行列の対角化」という奴です。Bは対角成分だけが有限の値で残りは0となります。

 

(2)今回の漸化式の定義の仕方は通常と異なり、未来の値にAを作用させることで過去の値を算出するものになっています。いつもの見慣れた「過去の値→未来の値」にするには、A^(-1)を両辺にかけてあげればよいことになり、結局pn, qnの一般項を求めたければ、A^(-1)のn乗を計算すればよいことになります。

 

(1)の状態を使うとAのn乗が求まり、その逆行列を求めれば原理的には計算できますが、計算が重いです。

そこで、(1)を先に逆行列のバージョンに直してから計算すると見通しが良くなります。その際、(PQ)^(-1)=Q^(-1)P^(-1)が成り立つことを使うと楽です(証明は容易にできますが、PとQの順番を間違えないように注意しましょう)。

 

このようにすればpn,qnの一般項が求まり、第1段階が終了です。

 

次に、常にpn≧0, qn≧0となる条件が何かを考えていきます。

 

pn, qnはともに、公比が1/4と-1の等比数列の和の形になっています。1/4の項については「nを大きくすると0に収束する」性質を持っている一方、-1の項については「絶対値は不変で符号のみが交互に変わる」という性質を持っています。

 

ここで、もし-1の項の係数が0でないとすると、nを大きくするといずれ-1の項に比べて1/4の項の影響が無視できるほど小さくなり、実質pn, qnの符号は-1の項のみで決まるようになります。-1の項は正負を交互に動くので、pn, qnが負になる瞬間が必ず現れることになります。これではまずいですね。

 

ということで、題意を満たすには、-1の項の係数が0でないといけないことになります。ここから冒頭の関係式と連立すればp1, q1が求まります。

 

しかし、このp1, q1はあくまで「必要条件」に過ぎないので、元の一般項に代入してちゃんとpn≧0, qn≧0となっていること(十分性)を確かめる必要があります。今回の場合は無事に十分性も確認できるので、これにて終了です。

 

<筆者の解答>

 

第2問

確率を絡めた極限の計算問題です。

 

(1)確率っぽい事をするのは実質この(1)だけですね。最初のk-1回は全て白で、k回目に赤が出る確率を計算すればOKです。(2)以降は純然たる極限の計算問題です。

 

(2)Fnは「初めて赤が出るのがn回目以降になる確率」です。(1)の結果が等比数列の形をしているので、Fn自体が計算でき、ネイピア数eの形が出てくるように辻褄合わせすることで極限を計算できます。

結果は1/eとなり50%よりは少し小さい確率です。ということで、感覚的には今回の思考では「赤はn回目よりも手前で出る可能性の方が高い」と言えることになりますね。

 

(3)Enは「初めて赤がでるタイミング」の期待値です。Enを計算すると、Σkr^(k-1)の形のシグマ計算が登場します。ただしr=n/(n+1)です。

このシグマ計算は、「公比rをかけて差し引きする」というのが教科書にも載っている定番解法ですが、Σr^kをrで微分することによっても計算できます(本解答ではこちらを採用しています)。

 

あとは、極限が計算できる形にまでEn/nを計算していきましょう。(2)で調べたようにr^nの極限が1/eになることに注意して最終的な極限を取っていきましょう。

 

結果は1-2/eとなり、これの意味するところは、タイミングの期待値がnが十分大きければ「玉の個数nの1-2/e≒26%の回数」ということです。意外と早いタイミングで赤が出てくれるようですね。

 

<筆者の解答>

 

第3問

関数のグラフと関連する面積に関する問題です。

 

(1)絶対値がある以上、外さないことには始まりません。中身の符号で場合分けして外していきましょう。

その上で、f'(x)とf''(x)を計算すればよいです。

 

(2)S1, S2をそれぞれ直接計算するのは極めて厳しいです。なぜなら、必然的に√(1-x^2)の積分が登場するわけですが、この積分積分区間の端が特定の値でないとx=sinθでの変換がしづらいからです。

今回の場合、積分区間の端には(1)で調べた通り1/√(1+a^2)というゴツイaの関数が来てしまうので、変数変換なぞできるわけがありません。

 

ということで、S1=S2そのものを式変形することでaを求めていきます。この時S1,S2を積分の形で表現して移項すると、「f(x)の絶対値の中身の0~1での積分値=0」というシンプルな式になります。これであれば簡単に積分が計算できるでしょう。

 

<筆者の解答>

 

第4問

誘導付きで、微分方程式を解く問題です。

 

(1) 不等式の方は、左辺の微分を計算することで容易に導出でき、さらにf'(x)=f(x)なら等号成立することも分かります。

この問題でポイントになるのは、「恒等的にF'(x)=0→F(x)は定数関数」ということです。ここから、f(x)e^(-x)が定数だと分かるので、後半の結果も証明できます。

 

(2)(3)

こちらも(1)と考え方は一緒で、g''(x)=g(x)なら(2)の不等式は等号成立し、g(x)/(e^x -e^(-x) )が定数と言えることから(3)が証明できる、という流れです。(3)の結果は「双曲線関数」と呼ばれる関数です。

 

(2)の微分を実行すると、すぐには符号が判別できない格好になります。なので、この結果をさらにもう1回微分することで符号を調べていきます。

ただ、分母が正なのははっきりしているので、実質分子の符号だけわかればよいわけです。なので、分子だけ取り出して微分するのが良いです。

 

大学では、このような誘導なしでf'(x)=f(x)やg''(x)=g(x)が解けるようにならないといけないのですが、現行の高校の指導要領では「微分方程式」が削除されているのでこのような誘導が付いているのだと思われます。

 

<筆者の解答>