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バーゼル問題の証明その4 ~中学数学のみ使う方法~

皆さん、こんにちは。

 

以前バーゼル問題

の証明を3通りの方法で紹介してきました。

stchopin.hatenablog.com

stchopin.hatenablog.com

stchopin.hatenablog.com

 

これらの証明は、主に大学数学(よくて高校数学)を使わないといけないものでした。

 

今回は、なんと「中学数学」のみで証明する方法を紹介します。

 

具体的には、使う知識は「三平方の定理」「円周角の定理」の2つだけです。

 

0. 光源分割の定理

 

まず、証明にあたって必要になる定理「光源分割の定理」を示していきます。とはいっても、必要な数学の知識は「三平方の定理」、そしてちょっとした物理の考え方だけです。

※「光源分割の定理」という名前は筆者が勝手に付けただけなので、一般には通用しない名前です。

 

下のような直角三角形を考えます。

このとき、hをa,bの式で求めることを考えると、相似の関係から

と分かります。ポイントは、求まった関係式が「長さの2乗の逆数」の関係式になっていることです。

 

ここで、物理の話を入れます。

 

一般に、光源から距離rだけ離れた場所での光の強さは、「rの2乗の逆数」に比例することが知られています。

 

この話を絡めることで、上の関係式からこんなことが言えます。

 

 

光源の強さが全部共通だとし、Oに目があると仮定すれば、

 

「Hに光源が置かれている状況」=「A, Bに光源が置かれている状況」

 

というのが、この「光源分割の定理」の意味するところです。

 

次からバーゼル問題の証明をやっていきますが、やることは、

 

「原点から見たときの光の強さが変わらないように、『光源分割の定理』を使って1個の光源をいくつかの光源に置き換え続ける」

 

となります。

 

実際にやっていきましょう。

 

1. バーゼル問題の証明

 

1-1. 光源分割を繰り返す

 

原点Oに目があり、座標(0,1)に1個の光源がある状態からスタートします。

このとき、原点は、強さが1/1^2 =1の光を感じることになります。

 

これから、この光の強さ1を変えることなく、(0,1)の光源を置き換えていきます。

 

今、光源を中心とする半径1の円(図の青破線の円)をとって、補助線を引きます。

補助線は、(0,1)を通りx軸に平行な線分、およびそれと円との交点と原点Oを結ぶ2本の線分です。

 

すると、角Oは『円周角の定理』から必ず直角になっているはずで、さらにy軸とx軸と平行な線分も当然直角で交わっています。これで、『光源分割の定理』が使える状況が出来上がりました。ということで適用すると、

元々(0,1)にあった光源を、青丸の2つの光源に置き換えることができるわけです。

 

ここまでで第1ステップです。

 

次に、中心が(0,2)で半径が2になる円(緑の円)を追加します。

この状態で、次のように補助線を引きます。

右の青丸と(0,2)を結んだ直径と、Oから伸ばした2本の線分です。

青の円と緑の円のそれぞれについて『円周角の定理』を使えば2つの直角が分かり、やはり『光源分割の定理』が使える状況にできます。よって、右の青丸は、

2つの緑丸に置き換えられます。左の青丸についても同じことをすれば、

結局、2つの青丸が4つの緑丸に置き換わります。これら4個の緑丸は正方形の頂点になってることがポイントです。ここまでが第2ステップです。

 

さらに、中心が(0,4)で半径4の円(黄色の円)を追加します。

ここで、第2ステップの時と同じように補助線を引いてあげれば、

同じように『光源分割の定理』が使える状況にでき、右上の緑丸は、

2つの黄丸に置き換わります。残りの緑丸についても同じ操作をしてあげれば、

結局4個の緑丸は8個の黄丸に置き換わり、さらにこれら8個の黄丸は正8角形の頂点となっています。ここまでが第3ステップです。

 

さらに、中心(0,8)で半径8の円(赤の円)を追加します。

 

あとは、これまでと同じ操作をすることで、8個の黄色丸を、16個の光源に置き換えることができるわけです。これ以上図示すると図が煩雑になるので、ここまでにしときます。

 

ここまでの流れから、規則性が見えてきますね。

 

厳密な証明は行いませんが、このような規則性が成り立っています。

 

1-2. 光源同士の間隔

 

さて、ここで、第nステップが終わった後の光源同士の間隔を調べてみましょう。

図のように、原点と光源の間隔をb、それ以外の隣り合う光源同士の間隔をaとします。

ここで、「間隔」は、直線距離ではなく、円周に沿って測った距離だとします。

 

aは、半径2^(n-1)の円を2^n等分した円弧の長さなので、

と中学数学の知識で計算できます。bはaの半分なので、

と容易に計算できます。

ここで、aとbはnによらない一定値になっていることが重要なポイントになります。

 

1-3. n→∞での様子を考察

 

1-1で考えた光源分割を「無限回」繰り返したとき、どうなるかを考えます。

 

1-1では、青円⇒緑円⇒黄円⇒赤円と追加していきましたが、追加するたびに下半分がどんどんx軸に近づいて行ってましたね。

ということで、この操作を無限回やれば、円の下半分はx軸とぴったりくっつくと考えることができます。

 

1-2で調べた通り、光源同士の間隔a,bは常に一定だったので、n→∞では、次のような状況になっていることになります。

原点Oに最も近い2つだけがOとbだけ離れたところにあり、そこから先は間隔aで無限個x軸上に乗っています。

 

原点Oが感じる強さ1の1つの光源を、これら無限個の光源に置き換えたのですから、次のような関係式が成り立っているはずです。

(※原点を挟んで左右対称なので、右側だけ計算して最後に2倍すればOKです)

 

あとは、左辺を無限級数の形にまとめ、1-2の結果を代入してあげれば、

 

奇数の2乗の逆数の無限和が求まります。

(Σ記号はもろ高校数学ですが、本質はただの足し算と共通因数の括り出しに過ぎないので、記号の意味さえ知ってしまえば中学生でも理解できる範疇でしょう)

 

ここまでくればあと一息です。

 

自然数は奇数と偶数の集合なので、奇数の情報から偶数、ひいては自然数全体の情報を作ってあげればよく、

となって、無事にバーゼル問題が証明できました!

 

初等幾何を駆使した、大変テクニカルな証明方法でしたね。