ちょぴん先生の数学部屋

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素数の逆数和と、双子素数のお話。

皆さん、こんにちは。

 

今回は、素数の逆数を全部足すとどうなるか?という話題と、それと関連して「双子素数」について紹介します。

1. 素数の逆数和

 

結論から言うと、素数の逆数を全て足した値は発散します。

 

このことを、高校数学の範囲で証明してみます。

 

まず、十分大きい自然数nを用意します。そして、n以下の素数が小さい順にp1, p2, p3,・・・,pmのm個だとします。

(例えばn=6なら、p1=2, p2=3, p3=5であり、m=3となります)

 

すると、n以下の自然数は、全てこれらm個の素数の積だけで表現できるので

(言い換えれば、1からnまでの自然数素因数分解してもnより大きい素数は登場しない、ということです)、

 

1からnまでの自然数は、p1~pmの積だけで表現できる自然数の一部になっているはずです。

 

このことを利用すると、次のように不等式を立てることができます。

①の左辺は1からnまでの逆数の和ですが、右辺が一見すると分かりにくいですね。

しかし、この右辺はp1~pmの積だけで表現できる自然数の逆数すべてを足したものになっています。

 

具体例で実験してみます。n=6だとすると、右辺は、

とかけます。この式を展開すると、分子は全部1で分母が2,3,5だけを素因数に含む自然数が1つずつ登場します。実際に書き出してみると、

という感じで、最初の6こが1から6までの逆数の和になっているので、通しで眺めれば

という感じに、①の右辺が左辺よりも大きいことが一目瞭然です。

 

さて、話を戻します。①の右辺の中身はm個の「初項1公比1/piの無限等比級数」になっているので計算ができて、

と帯分数表示できます。

 

このままだと考えにくいので、両辺対数を取って右辺を和の形にします。すると、

のように不等式評価が進みます。

上から下の評価で「x≧0のときlog(1+x)≦x」という事実を使っています。これは微分でもグラフでも容易に証明できるので、やってみてください。

 

これで、右辺が素数の逆数和っぽい形に近づきましたね。しかしそのままだと分母の-1が邪魔なので、これを取り除きたいです。

 

素数自然数なので、当然隣り合う素数の差は1以上のはずです。それを式にして変形すると、

と分母の-1を取り除けるような不等式評価ができました。

 

これを利用して元の式の不等式評価を進めると、最終的に②が得られます。

(最後の評価は、不足してる1/pmを足すことで大きくしています)

さて、②の右辺ですが、n→∞とすると発散する式になっています。何故かと言えば、logの中身が「調和級数」になっているからです。調和級数は発散することで有名な級数でした。

1+1/2+1/3+1/4+・・・=? - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)

 

左辺(つまり素数の逆数和)は、発散する右辺よりも大きいのだから、n→∞とすれば当然発散するというわけです。これで証明完了です。

さて、この結論から素数が無限個あることが分かります。なぜなら、もし素数が有限個しかなければ、その逆数和はしっかり値が求まり、発散するはずがないからです。

 

そして、素数の逆数和の増え方は、およそlog(log(n))と同じような増え方をすることが知られています。調和級数の増え方がlog(n)でかなり遅かったわけで、それにさらにlogがかかってるためとてつもなく遅くなるわけです。(※nが1億でも、log(log(n))の値は3にも届きません)

 

100以下の素数で実際に比較すると次のようなグラフになります。

縦方向のオフセット分を除けば、ほぼ同じようなグラフの形状をしてることが分かるかと思います。

 

2. 双子素数

 

次に「双子素数」について紹介します。

 

双子素数とは、「差が2になる2つの素数の組」のことです。

 

例を挙げると、100以下なら

3と5、5と7、11と13、17と19、29と31、41と43、59と61、71と73、の8組あります。

 

(ちなみに、差が2ずつになる3つの素数の組三つ子素数」は、3と5と7の1組しかありません。この証明は大学入試の標準レベルの問題ですので、考えてみて下さい)

 

100以上でもいくつか双子素数が見つかりますが、実は、双子素数が無限個あるかどうかは、まだ未解決問題です。

 

この問題を解く過程で、いくつか研究成果がありますので紹介します。

 

定理1双子素数の逆数和は収束する(収束値B2はブルン定数と呼ばれる)。(1919年)

素数を無条件に逆数を取って足すと上記のように発散しましたが、双子素数だけ抽出して同じことをすると一転して収束してしまうというのです。

 

もし、このブルン定数が発散してくれれば「双子素数は無限個ある」と言えてめでたしめでたしだったのですが、残念ながら収束してしまったので、必ずしも無限個とは断言できなくなってしまいました。

 

とはいえ収穫もあって、大まかに「素数全体のうち、双子素数になってるものは少数派だ(ひょっとしたら有限個しかない?)」という解釈はできそうですし、何といっても「ブルン定数が無理数だったら、双子素数は無限個だ」という証明アプローチを考えられるようになったわけです。

(※双子素数が有限個なら、ブルン定数は有理数にならないとおかしいですね)

 

ということで、今現在もこのブルン定数の値を調べようと数学者は奮闘しております。

 

定理2差が2となる素数と半素数の組は無限個存在する。(1966年)

 

双子素数に近いですが、片方を「半素数」と条件を緩めれば無限個あると証明されています。

素数とは「素因数を2つしか含まない自然数」のことで、15=3×5, 49=7×7などが該当します。

もしこれから研究が進み、この「半」を取り除くことができればゴールだというわけです。

 

定理3差が246以下となる素数の組は無限個存在する。(2014年)

 

今度は「差が2」の条件を緩くすれば無限個あるという定理です。この差をどんどんきつくしていき、最終的に「2」になれば証明完了、というアプローチの仕方です(スモールギャップ問題)。

 

最初提唱されたのは、「差が70000000以下なら無限個ある」というかなりガバガバなもので、これが提唱されたのが2013年とかなり最近の話だったのです。

 

そこから急激に研究が進み、その年のうちに「600」までに狭められ、そして翌年に「246」までに絞ることができて今に至ってるというわけです。

 

このように、素数にはまだまだ未解明なことが多いんですね・・・