2024年も大学入試のシーズンがやってきました。
今回は、九州大学の理系数学に挑戦します。
<概略> (カッコ内は解くのにかかった時間)
1. 空間内の三角形の面積 (30分)
2. 6次関数の複素数解(20分)
3. 階乗に関する整数問題(15分)
4. 格子点を3点以上通る直線の数え上げ(20分)
5. 積分値の極限(30分)
計115分
<体感難易度>
3<4<1=2<5
九大も平常運転という感じですが一部難問が混ざっています。また、去年まで数年続いた「共通テスト風穴埋め問題」は不評だったのか、ようやく姿を消しました。
第1問は空間内の三角形の面積を考える問題で方針は一本道なのですが、少々計算が煩雑です。
第2問は複素数平面の問題で、図形的に考えるのがポイントです。
第3問は整数問題で発想も難しくないため、ぜひ完答を狙いたいです。
第4問は正直直線を数え上げるだけのあまり面白くない問題です。
第5問が今回の最難問で、(2)は大学数学の深遠な世界に入りかねない設問です。
<個別解説>
第1問
空間内の三角形の面積を考える問題です。
(1)RPベクトルとRQベクトルが平行にならない、つまり互いに定数倍の関係にならないことを示せばよいです。
(2)公式に代入して三角形の面積をaの式で表現していくわけですが、計算過程が少々煩雑です。適宜塊を一文字で置くなどして工夫しましょう。
これを乗り越えれば微分して増減を調べるだけになります。
<筆者の解答>
第2問
6次方程式の複素数解に関する問題です。
(1) f(z)=0の解は因数分解によって全て書き下すことができるので、それらが絶対値1になることを説明すればOKです。
(2) 複素数の掛け算は、複素平面上で「縮尺変更と回転」を行うのでした。今回(1)の解はすべて絶対値1なので、条件を満たすにはwの絶対値も1でないといけません。
そうすると、実質wがどのくらいの角度回転させる複素数なのかだけ気にすればよくなります。
(1)の解を図示すると、解の配置からwの表す回転角度はπ/4の整数倍となる8通りに絞れるので、それぞれについて、(1)の解全てが回転しても外れないかを逐一確認していくことになります。
<筆者の解答>
第3問
階乗に関する整数問題です。
(1)与える式を変形するとb-1≧aとなりますから、a<bなら自明ですね。
(2)式の形から明らかにa<bなので、両辺をa!で割れば(1)が適用でき、bが2以下に絞れます。あとは個別検討でaを決めればよいでしょう。
(3)実はこの小問、(2)までとは独立に解けます。
aとbは対称な関係になっているので、a≦bとしても一般性を失いません。
これに基づいて評価を行うとa≦c≦bがわかり、与式全体をc!で割ると、「1以下の正の有理数」+「整数」=2の形にできます。1以下の正の有理数で整数になるものは1しかありませんね。
この検討により、a=b=cという当たり前の解だけが求まることになります。
<筆者の解答>
第4問
格子点を3点以上通る直線の数え上げの問題で、(1)~(3)のすべてで格子点を図に描いて直線を手で数えるだけの、正直つまらない問題です。
考える直線は、傾きが(絶対値n-1以下の整数)/(絶対値n-1以下の整数)の形に限られるので、一つ一つ虱潰しに数えることに尽きます。
L(n)の一般項を求めよ、とかであればもっと骨のある問題になったような気がします(一般項が書けるのかは分かりませんが)。
<筆者の解答>
第5問
積分値の極限に関する問題で、本セット最難問です。
(1) I(m,n)で部分積分を使うことになるわけですが、被積分関数が3つの関数の積になっているので、どの関数を選んで部分積分するかが重要になります。それぞれ試せばいいだけではあるのですが、今回はe^xを選択するとうまくいきます。
(2) (1)の結果からI(m,n)の一般項を求めるのは無理そうなため、(1)とは切り離して考えることにします。
一般項が求まらない数列の極限なのですから、不等式で評価して挟み撃ちというのが常套手段です。そうなると被積分関数をどうやって評価するのか非常に悩みどころであり、発想が難しいだけでなく試行錯誤が要求されます。
この後長々と余談が続きますので、結論だけ知りたい人は、(余談終)の後まで読み飛ばしてしまって大丈夫です。
(余談始)
最初にlogxを評価しようと思い立ったのですが、n→∞に飛ばしたとき、1≦x<eでは(logx)^n→0にいくのにx=eのときだけ、(logx)^n=1に張り付いてしまうのが非常に厄介です。logxを多項式で上から抑えようとも考えたものの、押さえた関数が0に収束してくれる保障もないしなぁ、と一旦その方針を諦めてしまいました。
ということで、まずは直感的には正しそうだが厳密ではない解答を書きました。
少し大学数学の用語が出てくることをご容赦ください。出てくる用語についてはこちらの記事で説明しています。「無限」には常識が通じない その2 ~積分と極限・無限級数の順番を変えると答えが変わる?~ - ちょぴん先生の数学部屋 (hatenablog.com)
被積分関数をfn(x)という関数列と捉えると、fn(x)は
1≦x<eでは0に、x=eではe^(e+m)に各点収束します。
そうすると積分は面積なのですから、x=eを除けばfn(x)の収束先の積分値は0といえます。不連続になっているx=eの部分についてですが、点だけ孤立してれば面積=0と見なせるため、結局I(m,n)→0が言えたことになります。
一見すると正しそうな証明ですが、数学的に厳密な解答ではありません。
今回のfn(x)は各点収束はするものの一様収束はしない関数列です。一様収束しない関数を積分する場合、「極限→積分」の順番で計算したものと、「積分→極限」の順番で計算したものの結果が一致するとは限らないのです。
上の解答では、本来要求されるものが「積分→極限」の順番なのに、収束先の面積を考察してるので、「極限→積分」と順番を勝手に入れ替えてしまっているのです。
だから厳密な解答ではないのです。これを本番で書いたら採点はどうなるのかよく分かりませんが、満点は望めないでしょうね。
という不安を抱えたままでも癪なので、当初考えていた「logxをxの多項式で上から評価する」という方針を掘り返すことにしました。
(余談終)
被積分関数にすでにxのべき乗が入っているので、logxも単純なxだけの関数で評価したいです。
y=logxは上凸の関数なので、接線を考えれば必ず上側に来ます。そう考えて危なそうなx=eでの接線を考えると・・・・接線の式がy=x/eというシンプルな形になり、これで光が見えてきました。
この式で評価すると、被積分の中がxのべき乗と指数関数だけになります。これでもまだ積分は厄介な形なので、もう指数関数の方も評価して定数にして積分から追い出してしまいます。具体的にはe^x≦e^eと評価します。
ここまでくれば被積分関数がxのべき乗だけとなり、積分計算が実行可能になります。
その結果をまとめると、見事n→∞で0にいく形になります。
I(m,n)が正の値となることは被積分関数と積分区間から明らかなので、これではさみうちが適用でき、題意が示せました。これが推奨解答で間違いないと思います。
いずれにせよ、厳密に証明しようと思ったら発想力勝負になってしまうため、難しい問題であることに変わりはないですね。
[追記] (1)の結果を生かした(2)の別解を紹介します。
被積分関数が正なのでI(m,n)>0が明らかです。ここから(1)の式においてI(m+1, n+1)>0を変形してI(m,n)を上から抑える不等式を作る、という方法になります。
コロンブスの卵的な発想ですが、本番では思いつかない気がしますね。
<筆者の解答>
↑ (2)の解答は余談部分で書いた通り数学的に厳密ではありません。厳密な証明である推奨解答は、下の別解となります。
↓(1)を利用した(2)の別解